訪問看護に必要な知識10選!これを知っておけば大丈夫。

突然ですが皆さんは「訪問看護」ってご存知ですか?

 

え、訪問介護?と思う方もいるかもしれません。事実、よく間違われます。

一般の方に10人聞けば8人は介護、と返ってきます。これが普通です。

 

僕の今の仕事はそういう立ち位置の仕事です。なぜそうなのかを考えてみて出た答えは…

 

  • 医療の担い手側(病院、看護師など)が訪問看護をよく知らない
  • 医療を受ける側(患者、家族、施設など)が訪問看護を知らない

 

考える必要もないくらい当然の答えになりました。双方知らなければ普及するはずもありません。

 

患者・家族が知識を得るには、医療者側からの情報提供が必須です。その中でも患者と接する機会が1番多いのは一般的には看護師。

 

この記事を読んでくれている看護師さん、訪問看護のことを知っていますか?

自分の親や、家族、恋人が在宅療養を必要とした時に看護師として何ができますか。

今回の記事で訪問看護のことを少しでも知っていただき、日常の業務や情報提供の材料としてお役に立てればと思います。

 

この記事の目的

・病棟看護師やその他医療者に訪問看護を知ってほしい

・患者・家族に選択肢の1つとして自宅を提案してほしい

・訪問看護の現場に興味があるのであれば一歩踏み出してみてほしい

 

1.訪問看護の現実

マイナーな訪問看護

冒頭でお伝えしたように、訪問看護と聞いてもはっきりとイメージできる方が少ないのが現実です。漫画・ドラマの影響から地域医療を担っている島医者の存在が知られていたり、テレビ番組で在宅診療の特集を組まれていることもあり、医師の往診については認知度があると考えらます。

しかし、看護師については某有名な看護師のお仕事ドラマ以降パッと浮かぶものはなく、看護師=病院で働いている人というイメージが定着しているのかもしれません。

訪問看護をしていると人に伝えると、「看護師が家に行くの?介護じゃなくて?」や「何をするの?」と皆、同じ反応をします。

 

平たく言えばお邪魔する人間が介護士なのか看護師なのかの違いだけなんですけどね。

 

今、僕はそれだけ認知度の低い仕事をしています。

2010年には既に65歳以上の人口が21%を超える超高齢社会を迎えており、今後より一層増えていく高齢者の受け皿を病院から在宅へとシフトしていく動きの中、必要とは言われつつも未だマイナーなのが訪問看護です。

 

それだけマイナーな業種ですから、患者・家族の認知度はないと思った方がいい、くらいのレベルであることを医療職は知っておいてください。

 

護師からみた訪問看護

患者・家族からみた訪問看護について触れましたが、では現場で働く看護師の認識やイメージはどうでしょうか。

 

以下は以前僕が言われたこと、周りが言われたことです。

周りから言われたこと

・訪問看護は病院で働けない人がいくところ、要は都落ち

・ベテランナースのイメージ。おばちゃんが多い

・クセがすごい

・医療行為できないんでしょ?

・緊急の対応ができないから患者は家には返せない

・自分1人で判断できないから私は働けない

 

 

クセがすごいのは病棟でもあることでしょう。しかし、他の内容は思ったことがある人もいるのではないでしょうか。

 

事実、訪問看護ステーション従事者の平均年齢は平成28年時点で47歳と高く、ベテランナースの集まりといわれても仕方がないかもしれません。

 

しかし、あくまで平均値であって若い世代のステーションも増えてきています。

現在の職場は30代2名と40代前半ですし、前職は管理者含め30代前半が主力のステーションでした。職歴も様々で三次救急のERからあえて在宅を選んでいたり、皮膚排泄ケア認定看護師がいたりといわゆる都落ちとは程遠い、濃い職場でした。

 

今大阪や東京など、首都圏で活躍しているステーションは20~30代が主体のところが多くなってきています。

 

クセがすごい、と感じてしまうのは年代の違いや価値観の問題であって同年代が多くいる職場であればそのようなことは感じないかもしれません。

 

医療行為ができない?いえ、できます。基本的にできないことはありません。

 

緊急の対応ができない?いえ、できます。電話を受ければすぐに自宅に向かいます。

まだ入院が必要な状態であれば入院を継続するべきです。タイミングの問題です。

 

1人で判断できない?それはどこに行ってもきっと同じことを言うでしょう。

 

 

訪問看護師として働き始めてから同職種からの興味のなさが、在宅療養への道を閉ざしている気がしてなりません。何となくこれからは在宅なんだなー、ふーん。というレベルからもう少し先を考えてみませんか。それが訪問看護に必要な知識への第一歩です。

 

訪問看護でできること

 先ほどの例にもあった、医療行為できないんでしょ?という言葉にあるように、訪問看護が何をしているのか、何ができるのか、どこまでできるのかを知らないが故に提案ができないというのは往々にあると思います。

 

「何ができるの?」という言葉を僕たちは耳にタコができるくらい聞いています。

 

その答えはとても曖昧な表現ですが「なんでもできます」という言葉が適切かと思います。

 

じゃあ買い物行ってきて…と言われるとそれは違うのですが、看護師としてできることは何でもやりますという意味です。ちなみに買い物援助はヘルパー業務の管轄です。

 

看護師の業務は保健師助産師看護師法に療養上の世話又は診療の補助と明記されており、訪問看護ではその範疇で対象者に看護を提供します。

 

訪問看護では主治医の発行する「訪問看護指示書」に基づいて看護を行います。基本的にはその指示書にある内容に沿って医療処置や援助を行いますが、主となる指示以外のことは記載されていないことがほとんどです。

 

主となる指示が点滴であれば、それ以外の内容はその人の生活をみて都度対応を変えていきます。ケア内容は十人十色、対象者によって同じケア項目でも内容が異なります。

 

どうでしょうか。病室にいる患者さんへの対応と変わりないと思いませんか?

医師の指示のもと看護を提供し、転倒リスクがあれば環境整備を行い、生活指導が必要であれば時間を設けて話していく。提供する場所が自宅になるだけ、それが訪問看護です。

 

訪問看護の対象となる人・疾患

訪問看護とは看護を提供する場所が自宅になるだけ、ということは理解いただけたと思います。では、次にどんな疾患があれば対象となるのでしょうか。

病院であれば主科が分かれていて、ある程度はそれに沿った患者が入院してくると思います。

 

結論から言えば訪問看護の対象となる人・疾患はすべてです。

 

訪問看護を利用するにあたり年齢や疾患の制限はなく、医師が必要だと判断して指示書の記入をすれば利用が可能になっています。つまり、誰でも利用する可能性があるのです。

もちろん、正当な理由なく指示書を記載し、訪問することは不正請求につながることになってしまうのでNGです。

 

つまり訪問看護の対象は小児から高齢者までであり、疾患にも制限がないため病院と同じように全ての人が対象ということになるのです。

 

ただし、訪問看護を利用するにあたり気を付けなければならない点は「継続的な療養が必要な状態である」ということです。自分で通院ができる方でも訪問看護の対象にはなりますが、一時的な症状に対して訪問看護を利用することは原則できません。

例:風邪をひいて食事がとれないため自宅で点滴をしてほしい、など。

 

折角訪問看護を利用したのに、保険請求できずに実費負担した…となったらお互いに苦い思いをするでしょう。もし導入に躊躇している事例があれば教えてください。一緒に考えましょう。

病棟で訪問看護を検討するタイミング

ここまでの内容で訪問看護に対するイメージを少しでも前向きに持っていただけたでしょうか。もしそうであれば幸いです。

 

では、実際に訪問看護が必要だと入院中のどの時点で検討するべきかを考えていきましょう。

 

入院後1週間くらいして、ある程度その人の背景やキャラクターがつかめてきたとき?

 

退院の目処がある程度たってきたとき?

 

いずれも間違いではありません。しかし、もう1つ重要なタイミングがあるんです。

病棟の看護師ならば、もうこの時点で勘づいていると思います。

 

そうです。最初のタイミングは入院時です。

 

入院時はよほどのことがない限り、家族やケアマネ、ヘルパーなどその人の背景を知る人間が付き添っています。忙しい中ではありますが、可能な限りその人たちから情報を引き出して、この人がこの後どういう経過で退院していくかを妄想してください。

 

忙しい中でそんなことやってられないよ!!という気持ちももちろんわかります。僕も病棟看護師でしたし、業務の中で取る入院業務の大変さは知っています。

 

しかし、そこでこの人に必要なことを妄想しておくことでプランが立てやすくなり、結果退院までの過程が短縮されるはずです。もちろん、医師が帰さないなど例外はありますが…。

 

そして、少し話は反れますが「退院調整スクリーニング」を確実に行ってください。

 

これは基幹病院の退院調整室でMSWに聞いた話です。ぶっちゃけた話、MSW1人に対する患者数が多くて業務が回っていない現状です。

 

各病棟でスクリーニングに引っかかった患者から順番に対応していきますが、記入が遅れるなどの理由で初動が遅れてしまい調整が長引いている現状だそうです。そうなってくると訪問看護どうこう以前に、病棟のベッド圧迫になりますし、DPCで病院自体の収益減少につながります。

 

入院時から退院を妄想する、これを忘れないでくださいね。

 

訪問看護師に必要なスキル

 さて、ここまでは主に病棟で訪問看護について考えてもらうための内容でした。ここからは実際に訪問看護師として働く上で知っておくべきことや身に着けておくことをお伝えしていきます。

 

フィジカルアセスメント能力

訪問看護師として、というよりも看護師として必要な能力です。しかし、ICUスタッフの超急性期患者に対して隅々まで行うものである必要はありません。もしその状態であれば在宅には帰ってきていませんので…。

バイタルサイン、排尿・便回数、食事量、睡眠など一般的な内容から今の状態を判断できれば大丈夫です。異常有りなのか、無しなのか、答えはシンプルです。異常があればその結果を主治医に報告して、指示を仰ぎます。病棟と一緒ですよね。それも待てない緊急事態であれば119番に電話して搬送します。報告の多くは事後か同時進行です。

 

先の例でも挙げましたが、訪問看護に一歩踏み込めない1つの理由として「1人で判断できない」という言葉をよく聞きます。確かに現場では1人のことが多いです。しかし、悩めば仲間に相談できますし主治医に電話をすることだってできます。在宅というスタイル上、初動が遅れてしまうのは仕方がないことです。検査機材もありませんし、現場にいるのは本人、家族、自分たちだけです。自分がみた時点で猶予のある状態か、搬送をした方がよい状態なのかがアセスメントできれば役割は果たしています。

 

社会人としてのビジネスマナー

僕が病院から訪問看護へ転職して、1番最初にぶつかった壁はここでした。今までは病院内での仕事しかしてきませんでした。入院してくる患者とその家族の対応をして、看護業務をして、委員会の仕事をして、と基本的に話す相手は患者か院内の人間です。

しかし、訪問看護は基本的には対外的な仕事です。事務所内で過ごすよりも、利用者宅や病院などに出向いて外の人と会う機会が多くなります。

 

そこで避けては通れないのが「名刺交換」です。在宅で過ごすにあたり、多くの人が対象者とその家族に関わってきます。担当者会議に出席すれば各事業所合わせて10名はじめまして、なんてこともあります。その状態でまずは顔を覚えてもらうために名刺交換を行いますが、そこでの第一印象で今後の仕事の依頼が来るかに直結しますし失礼なことはできません。名刺の渡し方にも色々なパターンがあり、相手の出方によって臨機応変に変えていかなければならないものです。

 

特にこの医療福祉業界はこういったビジネスマナーには疎いといわれています。名刺の渡し方が雑な人とマナーに沿って行う人では印象の差が如実に現れます。もし、家族や友人に営業職の方がいたら渡し方を聞いてみてください。営業のプロに教われば間違いないです。最初は逃げたくなる名刺交換ですが、今はYouTubeにもそういった動画が投稿されていますし、復習をしながら身に着けていけば問題ありません。

 

コミュニケーション力(営業)

先のビジネスマナーにも関わってくる部分ですが、個人のコミュニケーション力も重要な項目です。コミュニケーション力というと患者に対してなのか、事業者に対してなのか、と広義で抽象的な言葉になってしまいますので、今回は営業という点に絞っていきたいと思います。

 

営業、というとどういったものを想像するでしょうか。多くの場合は商品を売るために、営業マンが対個人や企業に対してプレゼンして…というものを想像されるのではないでしょうか。医療に営業って関係あるの?と思うかもしれませんが、実はあるんです。

 

病院が保険収入であるのと同じで、その他サービスも基本的には保険収入で成り立っています。しかしそこでの違いは、病院を選択して受診するのは個人選択がほとんどであるのに対して、他サービスはケアマネージャーや病院のMSWが選択することが多いです。

つまり、対象者に対して何かサービスを導入しようと考える際に候補に上がらなければ利用者の獲得には繋がらないということになります。利用者獲得ができなければ収入がないことになりますので、事業の継続が困難になることは目に見えています。

 

そのため、在宅サービス事業者はケアマネ事業所や病院を定期的に訪問して挨拶をします。挨拶といっても「うちの事業所使ってください!!」とストレートなことは言いません。それでは絶対に使ってくれませんし、印象が悪いです。基本的には依頼をいただいているところにはお礼と経過報告、まだ依頼をいただけていないところには困っていることがないかお話を聞きに行きます。その場で依頼がなくてもいいんです。最終的に依頼につながり、利用者含めてお互いがwin-winの関係になれれば理想的です。そこでいかに自分を売ってくるか、気に入ってもらえるかです。仲良しというと語弊がありますが、相手も人間ですので相談は話しやすい人のところにするのが普通です。いかに自分という人間を知ってもらい、この人になら頼めるという存在になれるかが大切です。

 

コスト意識(経営観念)

医療福祉業界は未だにお金の話、特に利益について話をすることはタブー視される傾向にあります。医療福祉=奉仕のようなイメージがついているからでしょうか。事実、俺らで儲けやがって、というようなニュアンスの言葉を言われたこともあります。

しかし、病院も訪問看護も事業をしている以上、利益がなければ存続していくことはできません。仮に奉仕として無償で介入したとして、一時的にはいいでしょうが結果事業がつぶれてしまったらその人の生活すら成り立たなくなってしまいます。双方に不幸になる結果が見えていることはやるべきではありません。

 

話が少しずれてしまいましたが、利益を考える図式はとてもシンプルです。

収益-費用=利益 たったこれだけのことです。収益を費用が上回ってしまうと赤字です。

いかに収益を大きくし、費用を少なくするかが利益を上げる方法ですが、コストカットをしてサービスの質を下げることは基本的にしたくありません。サービスの質が落ちて利用者の満足度が下がれば契約を打ち切られてしまうことは判り切っていることです。

 

大切なのは1人1人がコスト意識をもって過ごすことです。今使っている物品の費用をしるだけでも意識が変わります。膀胱留置カテーテルのセット、いくらか知っていますか?

 

大体2500~3000円くらいです。

看護師の残業代は大体2000~2500円/hくらいだと思うので、1時間の残業で1つ買えるくらいです。これをどう考えるかは個人の感覚ですが、僕は高いと感じます。

間違って開けてしまった材料は点数が取れませんから、それを繰り返していたら恐ろしい数字ですよね。

 

塵も積もれば山となる。小さなコストをないがしろにすると利益を食いつぶしてしまうということを覚えていただければと思います。

 

訪問看護に関わる保険制度

 利益のところでも少し話題に出ましたが、皆さんご存知の通り医療福祉業界の収益は基本的には保険点数の請求によるものです。訪問看護もそれに漏れず、保険請求によって収益を得ています。一部自費サービスを導入している事業者もあり、その部分は言い値になってしまいますので、今回は割愛します。

 

さて、皆さんもどんな保険が日々利用されているかはご存知だと思います。病院でいえば医療保険、介護サービスであれば介護保険という具合です。

しかし、訪問看護の請求は特殊で疾患やその状態、介護保険の申請有無などによって介護保険医療保険の両方を使い分けて介入します。それぞれがどんな時に使えるのかをしっかり把握していないと利用者の自己負担を増やしてしまったり、請求しても返戻といって保険請求を認定してもらえないことがあります。次の項目で少し掘り下げてお伝えしていきます。

 

介護保険

要介護者の尊厳の保持と、自立した生活を営むことができるサービス給付を目的として2000年に新設されたものが介護保険です。3年ごとに内容が改定されており、2018年は医療との同時改定で話題になりました。

対象は40歳~64歳までの2号被保険者と65歳以上の1号被保険者に分かれており、該当なし、要支援1~要介護5の8段階で行政が対象者を認定します。それぞれ保険の支給単位が違うため、ケアマネージャーは要支援・要介護認定の対象者について、それぞれの状態にあったケアプランを作成したうえで、依頼を受けた事業所がサービスを提供する仕組みになっています。

 

・実際にサービスを利用できるのは1号被保険者のみ。

 2号被保険者がサービスを受けるためには16の特定疾病に該当する必要がある。(表1)

・収入に応じて保険の負担割合が決定され、1~3割の自己負担が必ず発生する。

・訪問看護を利用する際に要支援・要介護の認定者は、介護保険優先の原則がある。

・ケアプランに計画されていれば保険請求の範囲で何度でも利用することができる。

・支給された単位を超えて利用した差額は実費負担となる。

 

表1

1.      がん末期

2.      関節リウマチ

3.      筋萎縮性側索硬化症

4.      後縦靱帯骨化症

5.      骨折を伴う骨粗鬆症

6.      初老期における認知症

7.      進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病【パーキンソン病関連疾患】

8.      脊髄小脳変性症

9.      脊柱管狭窄症

10.   早老症

11.   多系統萎縮症

12.   糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症

13.   脳血管疾患

14.   閉塞性動脈硬化症

15.   慢性閉塞性肺疾患

16.   両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

 

医療保険

病院受診などで一般的に利用されている保険で、大別すると医療保険(健康保険や国民健康保険など)、後期高齢者医療制度の2つにわけることができます。訪問看護では医療保険が優先利用ではないため、限られた状態の利用者(6-3参照)しか医療保険を使うことはできません。介護保険と同じように2年に1度改定が行われています。

●医療保険のポイント

・医療保険は基本的には3割負担が原則

・後期高齢者医療制度では1割負担が原則。収入により1~3割で変動する。

・訪問看護は週に3回まで、1日1回訪問、同日他事業所が医療保険で介入ができないなど制約がある。

・疾患などにより医療費が減免される制度がある。

 

医療保険での訪問対象者

介護保険の項目で書いたように、訪問看護利用の際は介護保険優先の大原則があります。しかし、介護保険には単位の縛りがあるため必要としている対象者に密な訪問を行うと実費負担が出てしまうことが懸念されます。そこで、対象の疾患や状態にある者は訪問看護利用を介護保険から医療保険に切り替えることが認められ、医療費の減免など助成を受けることができるようになります。

●医療訪問対象者のポイント

・0歳~39歳までの介護保険非該当者は医療保険を利用する。

・介護保険未申請者、非該当者は医療保険を利用する。

・厚生労働大臣が定める状態(表2)の場合、医療保険介入時は訪問看護の回数制限や1日の訪問頻度の制限が外れる。ただし、介護保険対象の疾患の場合は介護保険が適応される。

・厚生労働大臣が定める疾病等(表3)に該当する者は医療保険に切り替わる。※1

・特別訪問看護指示書が交付された場合は月のうち最大14日間医療保険で介入ができる。(気管カニューレがある、真皮を超える褥瘡がある場合は最大28日間に延長)※2

表2

1.在宅悪性腫瘍等患者指導管理若しくは在宅気管切開患者指導管理を受けている状態にある者又は気管カニューレ若しくは留置カテーテルを使用している状態にある者

2.以下のいずれかを受けている状態にある者

在宅自己腹膜灌流指導管理

在宅血液透析指導管理

在宅酸素療法指導管理

在宅中心静脈栄養法指導管理

在宅成分栄養経管栄養法指導管理

在宅自己導尿指導管理

在宅人工呼吸指導管理

在宅持続陽圧呼吸療法指導管理

在宅自己疼痛管理指導管理

在宅肺高血圧症患者指導管理

3.人工肛門又は人工膀胱を設置している状態にある者

4.真皮を超える褥瘡の状態にある者

5.在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している者

表3

1.末期の悪性腫瘍

2.多発性硬化症

3.重症筋無力症

4.スモン

5.筋萎縮性側索硬化症

6.脊髄小脳変性症

7.ハンチントン病

8.進行性筋ジストロフィー症

9.パーキンソン病関連疾患

・進行性核上性麻痺

・大脳皮質基底核変性症

・パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。)

10.多系統萎縮症

・線条体黒質変性症

・オリーブ橋小脳萎縮症

・シャイ・ドレーガー症候群

11.プリオン病

12.亜急性硬化性全脳炎

13.ライソゾーム病

14.副腎白質ジストロフィー

15.脊髄性筋萎縮症

16.球脊髄性筋萎縮症

17.慢性炎症性脱髄性多発神経炎

18.後天性免疫不全症候群

19.頸髄損傷

20.人工呼吸器を使用している状態

※1 太字部分の介入では医療保険のポイントで上げた週3回の訪問制限や1日1回の訪問の制限が外れ、より密度の高いケアが可能となる。

※2対象者の状態変化により点滴など医療処置が必要となった時に医師から臨時で出される訪問看護指示書のこと。

 

いかがでしょうか。対象者がどの状態なのか把握していないと間違った対応をしてしまいそうですよね。これを空で言えるのが最善なのかもしれませんが、実際そこまでの看護師はなかなかいません。こんなのあったな…くらいで頭に少しでも浮かんで来たら調べれば大丈夫です。

 

訪問看護の利用料金

訪問看護が保険請求によって収益を得ており、対象者の状態によって介入する保険の種類が違うことはわかっていただけたかと思います。ここでは、訪問看護を利用すると実際にいくら費用が掛かるのかを知っていただけるよう説明していきます。病棟でどれくらい費用が掛かるのかを伝えることができたら、不安を軽減する1つの材料になりますよね。

 

利用料金はどちらの保険を利用するかで金額が変わってきます。どちらも法定料金ですので、自費の場合を除きその設定額以上高くなることはありません。また、下表の基本的な料金以外にも状態によって算定する加算などが多数ありますが、煩雑になってしまうため今回は記載しません。興味のある方はどんなものがあるのか調べていただけると嬉しいです。

 

介護保険                  (単位)

項目・加算など 要支援者 要介護者
20分未満

300

311
30分未満 448 467
30分以上1時間未満 787 816
1時間以上1時間30分未満 1080 1118
緊急時訪問看護加算/月 574
特別管理加算Ⅰ・Ⅱ/月 500・250

 

介護保険の保険点数は時間ごとで細かく区切られています。ケアプランに定められており、利用料に直結してくる内容なので基本的にはこちらで訪問終了を早めたり、延長することはありません。必要に応じて延長した場合は都度報告をして実費負担が出ないように調整します。緊急時訪問看護加算は24時間看護師と連絡が取れ、緊急時に訪問を受けることができる月契約です。特別管理加算は胃ろうやストマなど医療管理を伴うものがある場合に算定します。

 

また、介護保険は市町村ごとに等級地係数というものが決められており、単位数×等級地係数×保険負担割合で対象者の負担額が決定します。等級地係数は介護サービスを提供する事業所の賃金が地域によって差が出ることを考慮し、1単位10円をベースに首都圏など地方に比べて賃金の高くなる地域ほど係数が上がっていく仕組みです。ちなみに1番高くなるのは東京の特別区(23区)の1単位当たり11.40円です。

 

医療保険

項目・加算など 金額
訪問看護基本療養費(Ⅰ) 5550円
訪問看護管理療養費(月初) 7400円
訪問看護管理療養費(2日目以降) 2980円
24時間対応体制加算/月 5400円
特別管理加算Ⅰ・Ⅱ/月 5000円/2500円

 

医療保険の訪問時間は介護保険と違い、30分~90分未満の訪問で算定するようになっています。極論、30分でも90分でも同じ金額です。加えて療養の管理費として訪問毎に基本料とセットで算定を行います。24時間対応体制加算と特別管理加算は介護保険と同じです。

 

いずれも基本的なものしか載せていないので、実際に訪問看護を利用するとなると金額が変わってくるかと思いますが、概算だけでも伝えることができれば家族の不安は軽くなるのではないでしょうか。

 

例を計算してみます。

要介護3 介護保険1割負担 30分以上60分未満を週3回利用 緊急時訪問看護加算

東京23区(1級地)の場合(816単位×3回×4週+574単位)×11.40円×0.1=11817円

 

東京23区に住んでいる方が週に3回60分未満の訪問看護を利用すると大体月に12000円くらいの自己負担になることがわかりました。

 

医療保険の場合はこの自己負担からさらに自己負担額が少ない、もしくは無料になる助成制度があります。次項ではそちらを紹介していきます。

 

訪問看護に関わる助成制度

訪問看護に関わってくる助成制度について一般的なものをご紹介します。いずれも疾患や状態が該当した場合に申請をすることで受けられる制度です。自動的に制度を受けることができるわけではないので、対象者がそれに該当するのかをしっかりと把握しておく必要があります。

 

後期高齢者福祉医療費(愛知県独自名称)

後期高齢者医療制度の自己負担分を、公費でまかなってもらえる制度です。通称マル福と呼ばれています。この名称は愛知県独自のようですが、同じような制度が他県のHPにも記載されているので調べていただくとわかるかと思います。

市役所の事例を見ると県外で受診した際に提示したが1割負担で請求されたという相談が載っていました。その場合は市役所で払い戻し申請をすれば戻ってくるそうですが、気を付けたいところです。申請には以下の条件に該当している必要があります。

 

マル福認定条件

1.身体障がい者手帳1級から3級の方

2.身体障がい者手帳4級で腎臓機能障がいの方

3.身体障がい者手帳4級から6級で進行性筋萎縮症の方

4.療育手帳A・B判定の方

5.自閉症状群(高機能自閉症及びアスペルガー症候群を含む)と診断された方

6.精神障がい者保健福祉手帳1級から3級及び自立支援医療(精神通院)受給者

※3級の場合は障がい厚生年金3級13号と同程度以上の方

※長期入院中などの事情により自立支援医療(精神通院)の認定を受けることができない方は除く

7.ひとり暮らしの方(市民税が非課税で税法上の扶養に入っていない方)

※ひとり暮らしの認定を受けていることが必要

※同一の建物、同一の敷地または隣接地に親族等がおらず、親族から経済的な援助を受けていない方

8.3か月以上ねたきり又は認知症の状態にある方

※要介護4または5と認定されてから3か月以上経過した方

※本人及び生計維持者のかたが非課税である方

9.戦傷病者手帳をお持ちの方

10.18歳までの子を扶養している母子家庭等の父母又は親代わりの祖父母で前年所得が11.児童扶養手当所得制限内の方

12.精神措置入院患者または結核入院患者

 

障害者医療費助成制度

医療保険の加入者で、次の条件に該当する方の自己負担額を公費でまかなってくれる制度です。こちらは通称マル障と呼ばれています。後期高齢者医療の被保険者、65歳から74歳までで後期高齢者医療の被保険者となりうる障害がある方はマル福に該当するため、こちらの助成を受けることはできません。

 

マル障認定条件

1.認定を受ける市に住んでいること

2.生活保護を受けていないこと

3.前年の所得(1月から7月は前々年の所得)が下の基準額以下であること

 

所得制限基準額

扶養親族等の数   基準額

0人     3,604,000円

1人     3,984,000円

2人     4,364,000円

4.次の①から⑤のいずれかに該当すること

①身体障害者手帳1級から3級(ただし、じん臓機能障害の方は1級から4級、進行性筋②萎縮症の方は1級から6級)をお持ちの方

③精神障害者保健福祉手帳1級から2級をお持ちの方

④知能指数が50以下と判定された方

⑤医師に自閉症状群と診断された方

5.特定医療費受給者証(指定難病)をお持ちで、日常生活が著しい制限を受けると医師に証明された方

 

高額療養費制度

こちらも医療保険に関してですが、同一月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が、あとで払い戻される制度です。手術などで医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、「限度額適用認定証」を保険者に発行してもらい、提示することで自己負担額がそれ以上は発生しなくなります。限度額は年齢や所得によって細かく分かれているため詳細まで覚える必要はありませんが、いざというときに提案ができるよう名前は覚えておいてください。

 

70歳未満の区分

 所得区分 自己負担限度額 多数該当※1
①区分ア

(標準報酬月額83万円以上の方)

(報酬月額81万円以上の方)

 252,600円+(総医療費※1-842,000円)×1%

 

 

140,100円

②区分イ

(標準報酬月額53万円~79万円の方)

(報酬月額51万5千円以上~81万円未満の方)

 

167,400円+(総医療費※1-558,000円)×1%

 

 

93,000円

 

 

③区分ウ

(標準報酬月額28万円~50万円の方)

(報酬月額27万円以上~51万5千円未満の方)

 

80,100円+(総医療費※1-267,000円)×1%

 

 

 

44,400円

 

 

④区分エ

(標準報酬月額26万円以下の方)

(報酬月額27万円未満の方)

 57,600円

 

 

 44,400円

 

 

⑤区分オ(低所得者)

(被保険者が市区町村民税の非課税者等)

 35,400円

 

 24,600円

 

 

70歳以上75歳未満の区分

被保険者の所得区分 自己負担限度額
外来(個人ごと) 外来・入院(世帯)
①現役並み所得者

 

 

 

現役並みⅢ

(標準報酬月額83万円以上で高齢受給者証の負担割合が3割の方)

252,600円+(総医療費-842,000円)×1%

[多数該当:140,100円]
現役並みⅡ

(標準報酬月額53万~79万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)

 

167,400円+(総医療費-558,000円)×1%

[多数該当:93,000円]
現役並みⅠ

(標準報酬月額28万~50万円で高齢受給者証の負担割合が3割の方)

80,100円+(総医療費-267,000円)×1%

[多数該当:44,400円]
②一般所得者

(① および③以外の方)

 

 18,000円

(年間上限14.4万円)

 57,600円

(多数該当:44,400円)

③低所得者

 

Ⅱ(市区町村民税の非課税者等)  

8,000円

 

 24,600円
Ⅰ(被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合)  

15,000円

※1診療を受けた月以前の1年間に、3ヵ月以上の高額療養費の支給を受けた場合には、4ヵ月目から「多数該当」となり、自己負担限度額がさらに軽減されます。

 

生活保護制度

生活保護制度は、生活に困窮する方に対して必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としたものです。相談や申請は市役所などの行政窓口、保護課が行っています。審査や支給額などは地域や状態によって異なるため一概には言えません。

訪問看護サービスでは医療・介護保険の利用額をそれぞれ医療券・介護券というもので行政側に請求し、対象者への請求は行いません。また、余談ですが生活保護受給者は国民健康保険を脱退しますので、受診時には必ず医療券の申請が必要になってきます。

 

在宅療養に関わる他サービスの存在

訪問看護を行うにあたって切っても切れないものが、他在宅サービスの存在です。在宅で対象者が暮らしていくにあたり、事業者や業種は違えどチームになって支えていく存在です。読んで字のごとくのサービスもありますので、簡潔にご紹介していきます。

 

往診・訪問診療

対象者が在宅で暮らす上でまず1番必要になってくるのは主治医の存在です。訪問看護の指示書はもちろん、ケアプランへの意見など影響は多岐に渡ります。在宅診療医である必要はなく、急性期病院の医師の指示書でももちろんサービスは成り立ちますが、可能であれば地域の在宅医を選定することが望ましいです。ちょっとした指示の変更や確認など密に連絡が取れる方が双方にとってやりやすいです。

また、医師が自宅に訪問するサービスは往診と訪問診療に大別されます。どちらもやることは一緒なのですが、何が違うかというと訪問をする頻度です。往診は臨時のもの、訪問診療は予定された月2回以上の定期的なものと位置づけられています。

 

ケアマネージャー

言わずと知れた在宅生活の調整役です。ケアプランの作成を担い、各関係機関との調整を行ってサービスを円滑に提供することが役割です。様々な職種からケアマネージャーになることができるので、介護出身、看護出身、薬剤師出身とその人によって得意分野が様々であるため当然苦手な分野もあります。そこを協力して関係性を築いていくことが重要です。

 

薬剤師

在宅で薬剤師?と思われるかもしれませんが、訪問薬局はメジャーとなってきています。自宅まで薬剤を宅配してくれ、その場で薬剤指導や管理を行ってくれます。

 

訪問介護

在宅サービスで1番メジャーな職種だと思います。訪問看護と同じように自宅に訪問して、対象者の生活援助を行います。

 

訪問リハビリ

30年度の法改定により単独の訪問リハビリステーションはなくなりましたが、訪問看護ステーションからと、病院からの訪問リハビリは引き続き行われています。整形色の強いイメージですが、在宅では呼吸療法やガン末期の緩和ケアなども行われています。

 

デイサービス

在宅で療養する対象者が日中自宅を離れ、施設で他者とともに生活をするサービスです。本人の社会性確保や、介護者の休息など様々な側面で必要なサービスとなっています。

 

国(自身が住む地域)の動向

いよいよ最後の項目です。訪問看護を行っていく上で知っておかなければならないことは、やはり国がどういう意向で今後の訪問看護を含む医療福祉サービスを進めていくかということだと思います。国だとスケールが大きいので、自分が住む地域まで落とし込んで考えてみてください。自分がこれから死ぬまで暮らしていくであろう地域の医療がどのようになっていくのか。そのニーズに沿った動きをしていかなければ例え病院であっても淘汰されていきます。

現在国は地域医療構想というものを掲げており、各県からさらに各自治体レベルで課題を明確にし、取り組んでいく流れとなっています。

今後高齢化がより進む中で患者それぞれの状態にあった医療を提供するため、医療機能の分化・連携を進めると同時に、退院患者の生活を支える在宅医療及び介護サービス提供体制を充実させていくことが必要とされています。

 

ちなみに私が住む愛知県東部の課題は下記のようになっていました。

○人口10 万対の病院の病床数は県平均を上回り、特に療養病床数が非常に多い。

○回復期病院が少ない。

○療養病床が多いため、回復期への転換かつ、在宅医療への移行を進める必要がある。

 

県の発表で病床数を減らし、在宅移行をと打ち出している以上はすべてが計画通りにいかなくとも病床の削減や他領域病院への転換の動きがあると考えた方がよさそうです。そして、やはりこれからは在宅サービスが必ず必要になってくるという裏付けにもなってきます。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。この記事を読み始める前よりも、少しでも訪問看護のイメージやそれを取り巻く状況などを理解していただくことができたでしょうか。

訪問看護は最初にお伝えした通り、まだまだマイナーな職種ですが国の方針上これから必ず必要になってくる存在です。関連法規など少し難しいと思われてしまう部分もありますが、興味を持っていただければ幸いです。

ちなみに僕は自宅に帰ることが大正解とは思っていません。人によって考え方はそれぞれですし、置かれている環境などによっても異なってくるでしょう。ただ、疾患があるから自宅退院を諦めるのではなくて、訪問看護などサービスを使えば帰れるかもしれないのであれば転院や施設と同列で自宅という選択肢を患者・家族に提案してほしいと思います。

理想と現実は違うということを痛いほど何回も経験していますが、1度も自宅の案が出ないまま転院というのは…というのが個人の見解です。どうぞよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

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