訪問看護の世界に入ってもうすぐ2年が経ちます。
僕は5年間の病院勤務の後、訪問看護ステーションへ転職をしました。看護師の資格を取った目的は訪問看護をやるためだったので、病院勤務の後はすぐにでも訪問をやろうと決めていました。
5年という数字は人によって短いと感じる人もいれば、ちょうどいい頃合いと感じる人もいると思います。僕は早いに越したことはないと思っていました。
しかし、実際に働き始めてみると「病院でこれを見ておけばよかった」や「これを勉強しておけばよかった」と思うことは多々あります。知識は多ければ多いほど、もちろん役に立ちます。
今回は訪問看護の現場で2年間働いてみて、実際に感じた自身の知識不足な面やこれを知っていたからよかったと感じたことについてお伝えします。
目次
1.訪問看護は何をしているのか
1-1.訪問看護の1日
1-2.営業やあいさつ回り
1-3.移動の大半は車
2.利用者はすべての疾患を持っていると考える
3.これは勉強しておくべきだった領域3つ
3-1.外科
3-2.皮膚科
3-3.特殊科(精神、小児)
4.知っててよかった介護保険
5.この2年間での失敗談
6.おわりに
目次
1.訪問看護は何をしているのか
「看護師」というと病院で働いている看護師が普通は1番に浮かぶと思います。看護師の仕事は?といわれれば点滴とか注射?と一般的には浮かぶと思います。看護師から考えれば入院患者のケア、検査出し、医師との連携、家族対応などもっとたくさんの業務が浮かんでくると思います。
では、訪問看護はどうでしょうか。
1-1.訪問看護の1日
訪問看護の1日の業務は大体こんな感じです。
・利用者宅の訪問(5~6件)
・記録、計画書・報告書の作成
・医師、ケアマネとの情報共有
患者のケア、記録や計画書の作成は病院でも日常的に行っていることです。
医師との連携ももちろんそうですよね。
訪問看護が病院と1番違う点は、基本的には全てが外部だということ。
利用者も、医師も、ケアマネも全部外の人です。
(施設内訪看や、グループ内企業であれば別ですが)
病院のようにPHSを鳴らして連絡、ということは現実なかなかできません。
仮に利用者が急変したとしても、医師が来るまでにタイムラグが生じます。
その場での状況判断は訪問している看護師に委ねられることも多いです。
明らかに脳梗塞だったので、先に搬送して事後報告ということもありました。
中には「俺が診る!」「勝手に判断するな」と昔気質な医師もいますが、そんなこと言ってたら利用者に不利益が生じます。
今後の方針や搬送の有無、有事の連絡などは事前に決めておいていざというときに備えるのが理想の形です。
1-2.営業やあいさつ回り
病院勤務だった僕にとって、訪問看護で最初の壁になったのは「営業」でした。医療は広く言えばサービス業に分類されます。顧客の獲得ができなければ事業の継続が難しくなってしまうので、営業に回ったり、あいさつに出向くことが多々あります。
既に関係性のある病院や居宅(ケアマネの事業所)であれば快く受け入れてくれますが、新規の場所や忙しい時期に行くと門前払いを受けることもしばしば。
完全に心が折れて事務所に戻ったことが何度もあります。
また、名刺交換や上座・下座の理解、言葉遣いなどビジネスマナーとして社会では一般とされているものが病院看護師では経験が皆無でした。遥か昔にホスピタリティの講座で習った、うろ覚えの知識でその場をしのいでいましたが、やはり限界でした。
やってみなければわからないことなので、ぜひ転職前にはビジネスマナーを勉強する、営業の友達に習う、家族相手に実践するなど、少しでもいいので体験してから転職をされると感じ方が全く違うと思います。
1-3.移動の大半は車
病院勤務時代、朝の検査出しからラウンド、食事介助、入院受入れ、カンファレンス、申し送りなど朝から夕方まで走り回っているのが当たり前でした。
しかし、訪問看護は点在する利用者宅を順番に回っていくため、移動の大半は車になります。そして仕事が忙しくなるとどうしても車内でお弁当を急いで食べることが多くなってしまいます。かつ、お菓子をくれるお宅が割と多いです。
つまり、太ります。
全ての人ではないと思いますが、訪問を初めて太ったという人をたくさん知っています。
絶対的な運動量の低下と、摂取食事量の増加が原因です。
訪問のタイミングによっては普段お弁当を食べる時間に退院カンファレンスが入ることもありますし、緊急呼び出しで対応することもあります。そうすると食べる時間がない、時間がずれる、などの理由で急いで食べてしまうことに…それも太る原因です。
ちなみに僕も転職してから10㎏近く太っています。控えめに言ってヤバいです。
これから訪問看護に転職をする人は、そういう環境になるということを理解した上で食事環境や運動習慣を見直しておくことをおすすめします。
1のまとめ
・訪問看護は基本的に外部環境ありきの仕事である
・ビジネスマナーを学ぶ
・太りやすいということを心に刻む
2.利用者はすべての疾患を持っていると考える
訪問看護を始めてから、利用者情報を確認するたびに感じることがあります
それは「情報全然ないじゃん」ということです。
基本的に訪問看護は外部サービスなので、患者情報を持っている病院や、ケアマネからその人のサマリーなどを受け取って情報を得ます。
中にはとても細かく書いてくださる場合もありますが、そんなことは稀です。
9割は情報がないと思って関わった方がいいです。
先日あった依頼では「既往歴:なし」となっていました。
そんなわけないじゃん!!と声を大にして突っ込みました。(心の中で)
自分が書いていたサマリーも思えば中身のないものだったのかなぁと病院時代を反省する日々です。サマリーはしっかり書きましょうね…。
そんな状態が在宅では日常茶飯事なので、初めて介入する方は手探りの場合が多いです。
救急外来に運ばれてきた、経過がよくわからない患者の対応とよく似ています。
内服薬をみてマドパーがあったのでパーキンソン病?とか。
お腹の音を聞こうとして服をめくったらストマがあった、とか。
これが常です。
2のまとめ
・情報にない病気を持っていて当然と考える
・読んで字のごとく、全身状態の観察が必須
3.これは勉強してくべきだった領域3つ
僕は病院時代、内科勤務でした。最後の1年は救急科にいましたが、夜間入院の受け場所というちょっと特殊な病棟だったので何科と断言できません。色んな科の患者さんが来たので広く浅く疾患を見ることはできましたけどね。
その中でも下にあげる3つの科は訪問看護を始めてみてもっとみておけばよかった、勉強するべきだったと感じているものです。(内科ももちろん必要です)
これから転職をされる方でもし経験ができるのであれば、学んでおくことをおすすめします。
3-1.外科
訪問を始めて、内科疾患が多いんだろうなという勝手なイメージでしたが意外と外科の利用者も多いことに驚きました。
ストマ増設はもちろんのこと、術後早期退院のための介入や、正中創が離開して開いたまま退院してきている人など、「え、この状態で帰すの?」という人がいる実際です。
外科経験のない僕にとっては術後ケアなんて学生ぶりですし、正中創が開いているのなんてオペ室見学でしかみたことがありません。
同じステーションの外科出身看護師に教えてもらいながら対応をしましたが、そういう環境に身がおけるとも限りません。
3-2.皮膚科
在宅といえば褥瘡は切っても切り離せないものです。褥瘡予防マットなど福祉用具による予防が可能になってきてはいますが、マンパワー不足は病院と比べれば明らかでやはり発生率は高くなってしまいます。
僕も退職前に皮膚排泄ケア認定看護師(WOC)に相談をしたり、教えてもらうことはありました。が、しかしいざ現場に立つと知識不足と経験不足を感じました。
褥瘡は訪問を始めて優先して勉強したことです。
また、褥瘡がわからないのは僕たち看護師だけではなく主治医も一緒です。
ちゃんと皮膚科の医師が主治医であればいいですが、内科などの他科であることがほとんどです。
医師も傷を見て処方してくれますが、明らかに違うものが出てくる時もあります。
「浸出液でぐしゃぐしゃなのに、ゲーベンかよ!!」とか、
「この傷にフィルム保護は…」とか。
他にも家族でラップ療法をしていたり、テレビでみたという処置をしていたり。
自身が正しい知識を持っていないと修正もできませんし、改善には向かいません。
3-3.特殊科(精神、小児)
なかなか経験することが難しい科ですが、どちらも在宅領域では対象になってくる科です。
僕が仕事をしている地域には精神科病院が3つあるので、在宅復帰をする上で訪問看護などのサービスを利用することが多くなります。
小児科についても人工呼吸器使用や、インスリン注射、導尿など成人と変わらない治療を受けている子がたくさんいます。
どちらにも言えることですが特殊科のため社会の受け皿がまだまだ少ない状態です。その中で両科を受け入れることができるということは大きなアドバンテージになります。加えて経営面での話をすれば、精神、小児とも医療保険で介入することができるため介入時間比でみる単価が高いです。
どちらかの経験があるだけでも、転職時には大きな付加価値となるはずです。
3のまとめ
・経験のない科のことも学習するべき。皮膚科は最優先!
4.知っててよかった介護保険
僕は看護師になる前はデイケアセンターで介護員をしていました。そこで介護保険についてある程度学んでいたため、訪問看護を始めても違和感なく仕事をすることができました。
訪問看護を行う上で介護保険は最重要といっても過言ではないですし、隅々まで把握していればそれに越したことはありません。しかし、量が膨大であるため都度調べることが多いのも現実です。
当面、利用者が介護保険を使う上で僕たちが知っておくことは以下の通りです。
・介護保険は申請した時点から効力を発揮
・介護保険と医療保険は原則介護保険優先
・介護保険は必ず自己負担が発生する
・他介護サービスと重複できない
4-1.介護保険は申請した時点から効力を発揮
入院患者が高齢で、介護保険未申請だった場合ほとんどの場合介護保険の申請を進めると思います。場合によってよし悪しですが、大体の場合はそれで大丈夫です。
訪問の依頼を受けると介護認定のおりていない「みなし」の状態で介入することがよくあります。
保険の認定がされていないのに介入ができる、というのは申請時点から効力を発揮しているため必要な人に迅速にサービスが提供できるための措置です。
しかし、これにもデメリットがあります。予想されていた介護度よりも低く認定されてしまった、もしくは認定がおりなかったというケースの場合に既にサービスを提供していた分が限度額をオーバーしているとその分が実費負担(10割)として発生してしまいます。認定が下りなかった方はサービス分すべて実費になってしまうので、よほど確定的でない限り介入を控える方が無難です。
4-2.介護保険と医療保険は原則介護保険優先
介護保険は2000年に新しく設立された保険制度です。医療保険の医療費圧迫を和らげるために新設された側面があるので、当然といえば当然のことです。
利用者の疾患や、医師の指示によっては医療保険での介入に変更になる場合もありますが、基本的には関わる全てのサービスが介護保険を利用してその方の在宅療養をサポートしていきます。
時折困る事例としては、体は自立しているが毎日創処置が必要なため介入が必要。介護保険を申請してしまっているため介護保険で入らなくてはならず自己負担が発生してしまう、ということがあります。制度の隙間にある人たちの問題です。そういう場合は相談の上介護保険の申請却下などの手段を取ることもあります。
4-3.介護保険は必ず自己負担が発生する
忘れてはいけないのがお金の話。介護、医療ともにサービスを受ければ当然料金が発生します。医療保険での介入をする場合は所得に応じて1~3割の自己負担がありますが、身体障害者手帳など状態によって医療費助成を受けることができます。
しかし、介護保険にはそれら助成制度というものがありません。施設入所などの場合に高額療養費制度を使うこともできますが、負担を0にすることは現状できません。さらに2018年の8月に介護保険の自己負担割合に3割が追加され、医療保険の1~3割と同じになりました。
介護保険は絶対自己負担がある、覚えておいてください。
4-4.他介護サービスと重複できない
訪問看護は基本的に1人で行動をします。病棟では2人で体位変換をしていたような人を1人で対応することも多々あります。
そんな時に思いつくのが、ヘルパーさんと一緒に入ればいいじゃん!ということ。
これ、実は今現在できないんです。過去にはできたそうなんですが、今は制度上できません。利用者や提供者側双方の負担を減らせることなのに、おかしいですよね。
ケアマネが作るサービス提供表というものには介入時間が明確に記載されています。その時間が重複していてはいけないので、仮にそういう組み方がされていたら注意が必要です。
看護師が複数名で介入するには理由付けが必要なので、やはり基本的には1人での介入が現実です。
4のまとめ
・介護保険の仕組みを理解して、サービスや情報提供を行う
5.この2年間での失敗談
最後に2年間訪問看護をしてきて起こしてしまった失敗をいくつかお伝えします。
幸い利用者に危害の加わるようなことは未だありませんが、今後も起こりうることなので自戒の意味も込めて記載します。その他、他スタッフの一例もあげておきます。
①利用者宅に行ったら「今日じゃないよ」といわれた。
②利用者宅に行ったら「午前中にもきたよ」といわれた。
③事務所に電話がきて「今日は来ないの?」といわれた。
④雨の日に利用者宅の外階段で滑り落ちた。
⑤駐車許可証を出したのに駐車違反をとられた(他スタッフ)
⑥コインパーキング出庫の際に1万円しかないことに気が付いた。
①~③はスケジュールミス。利用者によっては隔週利用や月1回利用の方もいるため、管理体制を整えないとこのような事例が多発します。
④はあるあるです。高齢者のお宅が多いので家の階段が急であったり、コケが生えているなど、双方事故につながるリスクが高まります。
⑤は稀なケースですが、その時は他管轄の許可証を誤って掲示していたそう。その他許可場所であっても、道路交通法に反する停め方をしていると違反を取られるので詳細を確認するべき。(交差点5m以内、消火栓前、駐車場出口前は駐車禁止、など)
違反金は基本実費のステーションがほとんどなので要注意です。
⑥もあるあるです。利用者宅に駐車スペースがない場合はコインパーキングを多用しますが、むしろ財布すら忘れたというスタッフもいたくらいです。財布とは別に小銭入れや緊急用のへそくりを準備した方がよいと思います。
6.おわりに
いかがだったでしょうか。今回は訪問看護を始めて2年経った経験から、やっておくべきこと、知っておくべきことをお伝えしました。病院から転職するときはギャップがあり、戸惑う場面も多いのは事実です。しかし、1時間を1人の利用者にしっかりと使え、話を聞き、対応することができるのは訪問看護の魅力の1つです。ぜひ、訪問看護の道へ進む参考にしていただければ幸いです。
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